ミュート:決別
この場面では綺凛の父親が反転し、綺凛に背を向ける。
綺凛とケンカしてそっぽ向いたというわけでもなく、これは「お前は黙って私の後をついてくればよいのだ」というポーズだ。
綺凛が黙って父親の後ろを歩く場面はいくつか見られる。
綺凛は父親に従うのが当然だと思っていたし、父親もまたそれを当然のものとして生きてきたのだろう。
おそらく父親は綺凛の友人関係にも口を挟んでいた。
綺凛と主人公との間に距離があるのは、父親がそれを引き裂いているからだ。
しかし親子の支配関係が崩れ、綺凛の人生に転機が訪れる。
綺凛が父親に背を向けた。
アダムとイブは掟に背き禁断の果実を食べることで楽園を追放されたが、また同時に不服従により人類の自立が始まった。
この綺凛の成長には、もちろん主人公の影響が大きい。
最後は父親の背中を見送るという形で支配関係が崩れる。
父親の頭の高さが綺凛と同じところまで下がり、背中に哀愁が漂う。
そしてドアの境界線で分断され、二人は別々の世界で生きることとなる。
綺凛は父親一人の世界から離れ、友人のいる世界に残った。
綺凛と友人たちが並ぶカットでは、紫の横線でつながりが強調されている。
綺凛は父親に反抗し離れたが、父親もまた綺凛から離れることを決意した。