綺凛をめぐる対立
主人公が綺凛を父親のDVから守った場面。
ここでは画面が傾いている。
絵が不安定になるので、地面を水平にするより緊張感が強い。
父親は坂の上側、主人公は下のほうに配置されている。
父親は下にいる者に対し強い力を振りかざすことを当然のこととし、主人公はそれに反抗した。
父親と主人公の間には綺凛が存在する。
だから二人の対立は綺凛についての思想の対立と同じだ。
父親は暴力的だがそれでも一応は綺凛のためにと考えていて、それは二人のつながった腕の輪のハートマークが示唆している。
父親より主人公が優勢なのは画面のフレームと関係している。
主人公は全身が映っているが、父親は画面端に追いやられ体の一部が切れている。
そのため、父親の方が大きく強そうな印象があるにもかかわらず、主人公が父親を押しているのだとわかる。
その結果、画面左側は窮屈であるのに対し、空間がある右には余裕が感じられる。
背景は直線で構成され、主人公も綺凛もそれに沿うようにまっすぐ立っている。
しかし父親は体が曲がり場に溶けていない。
少しわかりにくいが、背中のスーツの線が曲線を描いている。
背景は似た色合いでわかりにくいが、父親と主人公側で扉が変わっている。
露骨ではないがこれも両者の対立を表す。
逆にこの絵の中で一番浮いている色はなんだろうか?
それは茶色だ。
茶色だけが唯一この絵の中で調和されていない。
背景も制服も近代的なデザインで統一されているが、父親だけが時代遅れで異物なのだと言っている。
最後に、父親はグーで主人公はパーを出している。
ジャンケンなんてするわけないだろうとは思ったが、視覚的にはしっかりと対立が行われている。
しかもより的確に主人公が勝ったと示されているので、メッセージを伝える力は一番強い。